羽生蛇村/某所
竹内 多聞        前日/20時47分06秒






私は、この村の秘祭について調べる為に、自分の生まれ故郷であるこの羽生蛇村に戻ってきたのだが…



「せんせ〜今日は車で野宿なんですかぁ〜?」

本来なら一人で来るつもりだったのだが、私の教え子である安野が無理矢理付いてきてしまった。この事態を予測できていたのに対策を講じなかった自分が恨めしい。



だがもう過ぎた事だ、今更泣き言を言っても何も始まらない。

「誰も泊めてくれなかったから仕方ないだろう。それに、君が勝手についてきたんだ。多少の不便は我慢しろ」

「車で寝ると次の日体中が痛くなるんですよ?これのどこが多少なんですか。大体先生が……」

安野がまたぶつぶつと文句を言っているようだが、私は悪くないんだ。聞き流せば済むだろうしな。



「……だからもう少し粘れば泊めてくれたかもしれないじゃないですかぁ。って先生聞いてます?」

気付かれてたか、安野は洞察力だけは妙にあるからな。上手くはぐらかさないと。



「そう言えば安野、君のご両親にはこの事は言ってあるのか?」

今更だが、今日は色々ありすぎてこの事を聞くのを忘れていた。だけど普通親に言ってくるだろうからな、心配するほどの事ではないか。

「へ?勿論言うわけないじゃないですか。いきなり言ったところでウチの親は許してくれませんよ。だから、こっそりと出てきちゃいました」



呑気そうに返してきた安野の言葉に思わず絶句してしまった。今からでも無理矢理に返すべきか?いや、今から戻っている間に秘祭が始まったら元も子もないか。

「大丈夫ですって、明日にでもこのはがきをポストに出してきますから。ね」

そう言って私に一枚の絵葉書を見せた。今日はずっと一緒に行動していたのに、何時の間に手に入れたのか、謎が残るが敢えて言及はしないでおこう。

「そうか。だが、今度からは「先生、月が…赤い」



そう指摘され、私は天を仰いだ。人口の光が少ない事だけあって、夜空には満天の星が輝いていた。その中心にうっすらと紅色に染まった月が見られた。

「そう言えば、赤い月は災い事の前兆だと言う話を聞いた事があるな」

そう私が呟くと、妙に目をキラキラと輝かせながら安野が

「そうなんですか?先生、詳しく聞かせてください」

と言ってきたので、説明をはじめる事にしよう。

「それはだな……」
私は安野に説明しながらこ今日あった事を振り返っていた。勝手に安野がついてきた時の事、村で宿を探すが誰も泊めてくれなかった事、そういえばどこかのテレビクルーも見たな。明日はどうするかな?



「……と言う事があって、赤い月は不吉なものとされているのだ。安野は見た事が無かったのか?」

「はい。それにしても先生、なんだか月の赤い色がさっきより、濃くなってません?」

そう安野に指摘されて、再び夜空を見上げると、確かに少し朱色から赤い色に変化してきているような。多分そう感じるだけで、実際はあまり変化していないのだろうけど



私は安野に「そんなに穴が空くぐらい見てどうしたんですか?」と言われるまで赤い月を見つめていた。そう、ただならぬ不安と共に

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