船着場
栗山 秀彦        前日/17時53分58秒

次号予告


週間粕取が送る史上最大の企画!
これが真実!日本を影で動かしてきた黒幕達!!
あの事件の真犯人は!?  多方向から圧力を無視しての決死の掲載!!
あなたはこの真相に目を向ける事が出来るか!?
これが黒幕達の一覧だ!次号、全ての真実が明らかになる!!!
――碇――江田島――神代政太郎――海原――高祖宗蔵―――真宮寺――



「日本を動かしてきた黒幕達…ねぇ。あんなおっさんがそんなタマには見えなかったが、もう少し媚を売っときゃよかったな。いくら役立たずのお前の言う事でも聞いておきゃよかったかもな」

「お、俺は悪くないですよ。すごい記事が載ってると言ったのに、うるせぇだとか言って突っぱねたのは栗山さんの方なんですからね?」


栗山秀彦は、沖から流れてくる生暖かい潮風を感じながら、自称「栗山の相棒」の木村といかにも胡散臭そうな週刊誌を読みつつ、先の高祖家への訪問について話していた。

「俺にとっては高祖家への挨拶がが目的だったのによ。開口一番『お主らはわしのコネが目当てなのだろう?帰るがよい、小悪党にくれてやるものなど何もない』なんて言いやがってよ。あんな奴、権力がなければただの老いぼれのくせに。それにお前に任せた筈の件も3ヶ月前とまったく進展がなかったじゃねえか。」

「あの家が強情だったからこうも長引くんじゃないですか。どっちみち向こうさんは立ち退き、そして土地の代金は木下不動産と山分け。でしょう?」

木村の「仕事」が、不動産屋とつるみ土地の代金を騙し取る為に、最後通告をしに行く事だったのだが。

本来なら、木村だけがこの仕事をするはずだった。だが、仕事先がこの「水哭島」だったので、かねてから島だけではなく県議会にも影響力を持つ高祖家に興味を持っていた栗山も一緒に来たのだった。


「そうだ木村、お前がとろいから船を逃してしまったんだよな?次の出航時間を見て来い」

木村は一瞬嫌そうな顔をしたが、栗山には逆らう事が出来ない木村は渋々「水哭島総合案内所」まで歩いていった。そこまで遠くにあるわけではないので2〜3分で戻ってくる事だろう。

「ったく、何でこうも役に立たないんだ。いっそのこと、もう戻ってこなければいいんだけどな」

悪態をつきながら愛用のタバコをふかし始める。栗原は、もう今日の船は先程ので最後だったのは知っていた。ただ、木村から離れて一人になりたかっただけなのだ。



栗原は考える、このまま自分だけどこかに行って宿でも勝手に取るか?この島の土地勘なんて無いが、それは木村も同じ事だ。



6時になりました。よいこの皆さんは、早く帰りましょう。



子供向けの島内放送が、煩いぐらい大きな大きさで聞こえる。多分、近くにスピーカーがあるのだろうが、見つける事は出来なかった。

「余計なお世話だ」

つい口に出てしまったのに軽く栗原は驚いた様子で、周りに人がいなかったか見回した


――――さて、もう少しで木村のアホが戻ってくるけど、どうするかな?



栗原は口の端にうっすらと笑みを浮かべながら、遠くに見える今日最後の船を見送っていた。